恐怖

最近、母の職場で「人が通るはずのない、自宅の既に使われていない外階段(寝ている真横辺りにある)を真夜中に誰かが歩く音がした」という後輩の話にやんややんや言いながら盛り上がっていたのですが、母はふと思い出して、問うてみました。

「実は猫でした、っていうのと、実は幽霊でしたっていうのと、実は人間でしたっていうのと、どれがマシか?」と。それを聞いた面々は一様に黙り込んだのです.....。

 

忘れもしない二年ほど前の真冬のことでした。

母は真夜中にふっと目を覚ましたのですが、何故だか心臓がばくばくいっているのです。病気か?と思うほどのばくばく音(今にして思えば耳だけが起きていたのでしょう)。不思議に思いつつもう一度目を閉じ眠ろうとしたのです。......が、外でガタガタと音がし始めたのでそれどころではなくなったのです。

(猫か?)

近所の猫は自由気ままに人んちの庭を通り抜け屋根に上り喧嘩をしたり愛を奏でたり、と忙しいようですが今夜は目標を間違えてどこからか落下したのだろうか、と脳みその片隅で母は納得しながら布団の中で目を閉じていました。

.....が、落下したわりには鳴かなかったな、とか、まだガタガタいってるけどそんなに猫ってガタつくっけ?とか色々と考えている間にもガタガタ音は激しく大きくなり、そしてこちらに近づいているのでした。

一階の和室で母とニャコさんは並んで寝ているのですが、頭元にはすぐ庭に出ていける掃き出し窓があって(用心の為に雨戸は閉めている)、玄関からいったら奥まった場所にあるはずなのに、その雨戸がガタつき始めたのです。

「???????????」

これは、猫ではない?

かなーり、猫が落下してさ迷っている説を信じようとしていた母でしたが、無理そうでした。猫は雨戸をこんなにはガタつかせはしまい....。何なら地震かもしれないくらいの揺れを雨戸はしているのです。

起きるべきか、寝るべきか、それが問題です(寒いし)。明らかに眠れないほどガタついているのですが。隣で寝ているニャコさん(当時五才くらい)は全く起きる気配がないのでひとまず安心です(安心か?)。

そうこう悩んでいる間に、二階で寝ているお父さんがダダダダダと降りてきたのです。そうなったら起きて合流するしかない。で、リビングで「あの音は何か」と静かに語り合うお父さんと母。....もちろん暗闇(おまけに寒い)。

お父さん曰く、音がしたので二階の窓から下を見たら、物干し棹がめっちゃ揺れているっていうか、動いている、と。

もうこうなったらホラーでしかないです。

明らかにガタガタと移動している音は未だニャコさんが寝ている和室の外あたりで続いている。そこから先は行き止まりなので音も行き止まったままガタガタガタガタガタガタ....どうしたもんか?

もしかして、泥棒?本気?こんなに気づかれてるのに?(少々混乱中)

母の結論→泥棒が屋根に上ってたけど、滑って落ちて足を骨折したか何かで動けずウロウロしている!!

そうと決まれば、話は簡単。確かめるのだ!

「お父さんはニャコさんを見よって!」

と、起きないニャコさんの側にお父さんを配置し(この時点で普通は逆だろ、と同僚らにツッコまれたのですが)、母はリビングの出窓から和室前の庭を懐中電灯で照らしたのでした。

すると!!!

地面を照らした先に足があるではあーりませんか!

「足がある!!」

見たままを言う母。耳を疑うお父さん。

そんなわけで光を上にあげていくと....。

何ということでしょう、青ざめた年齢不詳の男が目を閉じ斜め上を向きながら足踏みしていたのです!耳を澄ませば低く「う~」と唸る声。

ゾンビ⁉️

今となってはちょっと頭の調子はどうか、と思われる思考ですが、当時の母は結構本気で思っておりました。私の知らないところで皆がゾンビ化している!と。

いやいやいやいや待たれよ、母の脳細胞よ。これは、落下したところを発見された泥棒が、「違いまっせ、泥棒じゃなくて寝ぼけてウロついてるだけでっせ、えろうすんません」ってアピールしてるんやって。

......結論。ゾンビだろうが泥棒だろうが人間に変わりなし(だって足踏みしてるし)!

「通報するで!」

と、母はお父さんに宣言したのでした。

 

                つづく...